スタッフの働く環境を整え、美容業界全体の基準の底上げを「株式会社CS」代表取締役社長 逸見貞治氏へインタビュー

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今回お話を伺ったのは、美容室をメインにアイラッシュサロンやネイルサロンなどグループ全体で100店舗以上を運営する「株式会社CS」代表取締役社長、逸見貞治(へんみ さだはる)さん。今年は、1年で約120人ものアイラッシュ施術者を雇用。サロンの8~9割が未経験者OKとしており、自社のみで一から教育を行っているそう。しかも離職率は脅威の3%!スタッフに安心感と満足感を提供する、逸見さんの経営術について詳しくお聞きしました。

【経営者プロフィール】逸見貞治さんとは?

株式会社CS(シーエス)代表取締役社長
逸見貞治(へんみ さだはる)さん

山形生まれ。美容師だった祖母、母の影響を受けて、美容の道に進むために上京。
1999年 東京文化美容専門学校卒業
1999年 株式会社エル 入社
2002年 株式会社エルにて店長を務める
2006年 独立しカルフール草加本店を開業
2007年 法人 株式会社CSを設立、埼玉県を中心にヘアサロン・ネイルサロンを展開
2018年 株式会社CSで初となるアイラッシュサロン「カルフールリル」をオープン。店舗展開を関東近郊、福岡まで広める
2020年 コロナ禍の中でノアブランド1号店となる「まつ毛パーマ専門店カルフールノア草加本店」をオープン。のちに40店舗まで展開するアイラッシュブランドへ成長
2023年現在  株式会社CSはアイラッシュ事業50店舗(ノアブランド40店舗、その他10店舗)、ヘアサロン15店舗、ネイルサロン5店舗を有する企業に成長

コロナ禍の逆境を強みに。新たなアイラッシュ業界に本格参入

当初は美容室をメインで運営されていたそうですが、アイラッシュ事業を始められたのはいつでしょうか?

2006年3月に美容室をオープンさせ独立、2007年8月に「株式会社CS」を立ち上げました。会社設立から10年ほどは美容室やネイルサロンなどを経営していたのですが、ここ4、5年はアイラッシュ事業に力を入れています。現在、東京・埼玉・福岡をメインにサロンを展開し、今後は仙台や名古屋・大阪などの地方大型都市にも出店を予定しています。

この4年というと、コロナの感染拡大真っ只中ですよね。そんな中、新たにアイラッシュ事業へ参入することになった経緯は?

アイラッシュ事業としては、もともと美容室の中の1席から始めたんです。そこが2席必要になり店舗化しなければ、という流れでオープンと相成りました。その後、コロナの感染拡大によるマスク需要が急激に高まり、アイラッシュ事業が注目を集めるだろうという推測のもと、弊社では新業態となるまつげ特化型サロンをスタートさせました。

現在、大手美容サロン探しサイトでの「コロナが落ち着いたらどこに行きたいですか?」というアンケートでも、Z世代人気No.1はアイラッシュサロンなんです。若い世代にも、まつげの需要は大きいのだと実感しています。

マーケティングへの積極的なデータ活用は、かねてからされているのでしょうか。

データは多いに活用しています。サロンのメニュー構成においても、すべての施術メニューを展開するのは難しいので、まずは施術メニュー人気ランキングTOP10くらいに入るメニューから展開していくようにしています。一気にいろいろなメニューに手を出すと、結局教育費に大きなお金がかかってしまうんですよね。教育費のコストダウンのためにも、データでしっかりとトレンドを押さえて、お客様に求められるメニューに絞って展開しています。

データに裏付けされているとはいえ、コロナ禍での新規事業スタートに不安はなかったのでしょうか?

結果論なんですが、求人に苦労するのでは?という予想に反して、アイラッシュの方が断然人が集まりやすかったんです。一般的なアイラッシュサロンでは、経験者を雇用することが多いかと思うのですが、弊社では未経験OKとしています。実際入社するアイラッシュ施術者の8〜9割は、未経験者です。自社の教育カリキュラムでしっかり育てる自信があるので、新人や未経験者を積極的に受け入れています。

サロン運営の柱として、僕自身が大事にしているのが「教育」「集客」「求人」の3つ。そしてその上で、「評価」に力を入れています。基本給の他、歩合制かつ半年に1度のボーナス支給などの評価制度により、スタッフ個人の売上に見合った給料を支払うというもの。一般的なサロンより稼げることもリクルートがうまくいっている理由だと考えています。今年1年だけで約120人のアイラッシュ施術者を雇用しました。美容室では求人に苦労されているところも多いと思いますが、アイラッシュ業界でまだまだブルーオーシャン。人材を集めやすかったのが功を奏しました。

自社の教育体制はどのように構築されたのでしょうか?

最初の半年間は試行錯誤の連続でしたが、1年くらい経つ頃には教育ノウハウが構築され、教育体制が整いました。本部講師が3名おり、研修のほぼすべてを担っています。本部講師のいないエリアのスタッフには、講師のいる拠点へ出向き、研修を受けてもらう形です。また現在では、自社での教育はもちろん、他社の入社後1ヶ月間の研修などを請け負う事業も行っています。

多角的・多店舗展開をすることで気づいた労働環境を整備することの重要さ

逸見様インタビューrr

今、続々と新規サロンをオープンされている逸見さんですが、アイラッシュビジネスの魅力は?

音がうるさそうといった理由で、ヘアとアイラッシュは相性が悪いと思われがちですよね。ですが、「間にシャンプー台を挟む」「パーテーションで仕切る」など、ちょっとした工夫で環境的な問題はクリアできるんです。逆に、アイのおかげでヘアの集客効果が結構あるんですよ。相乗効果の集客が見込めるという意味でも、ヘアやネイルなど他の施術との相性のよさもアイラッシュビジネスの魅力だと思います。

また、ご存知のとおりアイラッシュは再来周期がヘアの半分なのも大きなポイント。その分、軌道に乗るまでの時間も半分で済むんです。美容サロンはストック型ビジネスです。来店のペースが2~3ヶ月に1度の美容室の場合、再来顧客のストックがかかるまでの期間が半年から1年はかかってしまいます。対して、アイラッシュなら1ヶ月スパンで再来されるのでストックがしやすいですよね。この集客のスピード、軌道に乗るまでの速さがアイラッシュならではのメリット。ここを意識していなかったら、今年1年で20店舗近くオープンするなんてできなかったと思います。

これだけの店舗数を抱えられていると人材確保も大変かと思うのですが、どのような取り組みをされているのでしょうか?

弊社では、スタッフが辞めない制度を積極的に導入しています。まず、圧倒的に給料が高い給与体制ですね。一般的な美容サロンで5年目に相当する年収を、弊社では3年目で手にすることができるんです。アイラッシュ施術者はほとんどが女性。女性にとっての5年はライフスタイルに影響するほどの期間ですよね。弊社はそこに着目し、最初の3年で美容人生を早く楽しんで、しっかり稼いでたくさん遊べるという形を実現しています。もちろんその先も見越して産休育休制度もあります。この給与体制と将来への安心感が若い施術者たちに受け入れられているようです。実際に離職率も3%と圧倒的に低いんです。

今は、時間単価を日本一高くすることが目標です。「美容業界は稼げない」という負のイメージを変えていきたい、と思っています。会社の事業計画でも美容師・アイラッシュ施術者など業種を問わず3年目までに月平均30万を稼がせることを公言しています。

その他にもルールを作りすぎず働く環境を提供する、店舗に店長を置かないなど、スタッフが気持ちよく仕事をするための独自の取り組みを行っています。

逸見さんがサロンを経営されるようになって15年あまり経ちますが、現在の独自の経営方針が固まったのはいつ頃なのでしょうか?

人材に恵まれ、多店舗展開できるようになったのは、ここ数年くらい。正直いうと、過去に弊社もスタッフ離れに悩まされた時期がありました。うまく行かなかったのは、やはり環境整備が十分ではなかったから。有給制度や研修中の給与など、何が必要で何が不要かを見定め、不十分だと思われるところを半年から1年をかけて、1つずつクリアしていきました。

美容業界の水準を整えるために。まずは自分の会社から変えていきたい

逸見さんが労働環境に力を入れられている理由は?

美容業界がより良くなるためは、制度や福利厚生を充実させて、お金の面でも休暇の面でも納得し、安心して働ける労働環境を整備することが大切だと考えます。労働環境が整った会社が増えてくれば、美容業界全体の年収の底も上がってくると思うんですよね。スタッフ自身がいくら所得を上げたいと思っても、会社の成長なくしてスタッフの収入は上がりません。だからこそ、まずは労働環境を整えて会社が強くなることが大変重要だと考えています。

それと、美容業界には収入の相場がないことも問題だと考えています。例えば、不動産業界なら、宅建の有資格者の平均相場ってありますよね。でも現在の美容業界は、完全にオーナーにゆだねられている状態です。今後は美容業界でも水準ができてくれば、収入や教育の程度の基準も決まってきますよね。弊社がモデルとなり、100人規模でスタッフを満足させられる雇用を進めることで、美容業界全体の基準の底上げができたら、と思っています。

また中には、雇用型ではなく、業務委託やシェアサロンという形態もありますよね。しかし、これらの形態では、人材育成はなかなかうまくいかないのが現状。業界全体の水準を上げるためには、人を育てる教育こそが重要なんです!先にお伝えしたとおり、弊社は未経験者もたくさん雇用しているので、その方々がジョブチェンジされることもありますが、転職先で「教育をCSで受けたなら安心!」と思われたら本望です。

まとめ

美容業界は、特に働き始めは給料が低く、残業は多く、上下関係が厳しいというのが世間のイメージ。逸見さんは、そんな美容業界の負のイメージを払拭し、スタッフが満足できる労働環境の整備に注力されています。労働環境を整えることで雇用を促進、さらに教育に力を入れることにより、自サロンの発展のみならず、今後の美容業界を席巻する優秀な人材を輩出する__。スタッフ満足感とスピード感を兼ね備えた逸見さんの経営手法は、きっと美容業界全体の基準の底上げにつながるでしょう。

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