業務委託とインボイス制度|アイデザイナー・美容師が知っておくべきポイント
2023年に始まったインボイス制度。これからフリーランスになる予定のアイデザイナーや美容師、サロンオーナーになる人は、インボイス制度と無関係ではありません。今回は、フリーランスとして業務委託の契約を結ぶ美容施術者やサロンオーナーが、インボイス制度によって受ける影響を確認しましょう。また、おさえておきたいポイントもご紹介します。
インボイス制度とは?業務委託でも関係ある?美容業界への影響を解説
まずは、インボイス制度の内容について見ていきましょう。
インボイス制度の基本
インボイス制度とは、事業者が消費税を正しく支払うために必要な制度です。アイサロンがまつげ美容液を仕入れる時は、仕入れ先に商品代金と消費税を支払います。その後、まつげ美容液を販売する際はお客様から商品代金と消費税を受け取りますが、消費税の差額を計算して申告しなければいけません。このように、販売時に受け取った消費税から仕入れで支払った消費税額を引いた金額を納める仕組みを、仕入税額控除といいます。
<例>
|
商品代 |
消費税 |
合計 |
仕入れの際に支払う金額 |
30,000円 |
3,000円 |
33,000円 |
販売時にお客様から受け取る金額 |
40,000円 |
4,000円 |
44,000円 |
差額 |
10,000円 |
1,000円 |
|
このような場合は、お客様から受け取る消費税4,000円と、仕入れで支払う消費税の3,000円の差額である1,000円が、納めなくてはいけない消費税です。
2023年10月から、仕入税額控除の適用のために「インボイス(適格請求書)」が必要になりました。なお、インボイスを発行するには「インボイス(適格請求書)発行事業者登録」をする必要があります。インボイスの発行は免税事業者のままではできないため、課税事業者への変更が迫られるでしょう。
インボイス制度導入による美容業界への影響
インボイス制度は強制ではないため、登録しないという選択も可能です。しかし、インボイス発行事業者登録をした場合もしない場合も、以下の影響が考えられるでしょう。
まず、自サロンがインボイス発行事業者登録をすると、今まで免除されていた消費税を納める義務が発生してしまいます。そのため、同じ売り上げがあったとしても、そこから消費税を支払うことで手元に残るお金が減ってしまうでしょう。
また、インボイス発行事業者登録をせずに免税事業者のままで事業を続けると、取引先との契約が危ぶまれる可能性もあります。なぜなら、取引先がインボイス発行事業者登録をしている場合、インボイスを発行できない免税事業者との間で発生する消費税には仕入税額控除が適用されないため、納税額の負担が増えるからです。そのため、契約が打ち切りになるケースや、支払わなくてはいけない税金分の値下げを依頼されるケースもあるでしょう。なお、自社と取引先の間だけでなく、アイデザイナーや美容師と業務委託契約を結んでいるパターンでも同様です。
業務委託で働くアイデザイナー・美容師がおさえておくべきインボイス制度のポイント
ここからは、サロンと業務委託契約を結んで働こうと考えているフリーランスのアイデザイナーや美容師が気を付けるべきポイントをご紹介します。
美容業界における業務委託とは
アイサロンや美容院によっては、さまざまな雇用形態を採用していることも。正社員やパート・アルバイトであれば、サロンの従業員として雇われており給料を受け取っています。業務委託で働けるサロンであれば、サロンと契約を結んで個人事業主として働くことも可能です。業務委託契約では業務内容に対して報酬が発生するため、働けば働くだけ収入が上がるというメリットがあります。また、時間にとらわれず働けるため、自分の予定に合わせた働き方を選べるでしょう。
フリーランス・個人事業主の立場での注意点
ここで、フリーランスと個人事業主の違いを見てみましょう。仕事ごとに契約を結ぶ働き方を、フリーランスといいます。また、フリーランスの中でも、開業届を出している人を税務上の呼び方で個人事業主といいます。
インボイス制度においては、個人事業主とフリーランス共に、免税事業者なのか課税事業者なのかが重要になるでしょう。お伝えしているように、免税事業者はインボイスを発行できません。取引先がインボイス発行事業者登録をしている場合は、免税事業者だと契約で不利になることも。課税事業者への変更とインボイス発行事業者登録を促される可能性を念頭に置いておきましょう。
インボイス発行事業者の登録手続き
インボイス発行事業者登録をするには、所轄の税務署長に申請しなければいけません。書面に記入し申請書を作成・送付する他、e-Taxでも可能です。インボイス発行事業者登録が完了すると、登録番号が発行されます。なお、この登録番号は、インボイスに記載が必要です。
インボイスの記載事項と発行方法
インボイスには、以下の6項目を記載しなければいけません。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
(引用:国税庁 適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き 2022)
現在、消費税は8%と10%が混在しているため、消費税率ごとに小計金額を記載しなければいけません。また、消費税の税率ごとに1回までしか四捨五入ができないため、注意しましょう。
【業務委託】インボイス制度における請求書の作成と管理
インボイス発行事業者の登録をした場合、請求書の作成方法はどのように変化するのでしょうか。インボイスを導入すると消費税を正しく納められる一方で、事務作業の負担をできるだけおさえるには準備が必要です。ここからは、インボイスの作成と管理についてお伝えします。
業務委託の請求書テンプレートと作成のポイント
業務委託で仕事の受注をする場合は、請求書のテンプレートを作成しておくと良いでしょう。業務委託の請求書に記載する項目は、以下の8点です。
- 書類を作成した人の情報
- 取引の年月日
- 取引の内容
- 消費税
- 請求書を受け取る事業者の情報
- 発行日
- 支払期日
- 振込先の情報
また、請求書にはいつのどんな仕事なのかを明記しておくと分かりやすいでしょう。「〇月○日、アイラッシュの施術、△△店にて」など、業務内容や場所を具体的に記しておくと、間違いやトラブルを防げます。
インボイスの保管と管理の重要性
課税事業者の場合、インボイスの保存期間は7年です。ただし、この7年間の数え方が複雑なため、注意が必要。インボイス制度では、「インボイスの交付日が属する課税期間の最終日の次の日から2ヵ月が経過した日」から、7年間保存しなくてはいけません。交付した日から7年間ではないため、いつまでが保管期間なのかを必ず確認するようにしましょう。
また、7年間もの間、インボイスを保管しておくにはスペースを確保しなければならず、管理方法や業務フローをあらかじめ決めておかなければいけません。
電子インボイスの活用方法
インボイスは、電子データでの発行・保存が可能です。電子化すると処理にかかる手間や時間が削減できる他、入力時のミスの防止に役立ちます。また、オンラインでやり取りが可能という点も、リモートワークが増えている現代にマッチしているといえるでしょう。
なお、電子インボイスは「電子帳簿保存法」に則り保存しなければいけません。また、2022年1月からは、電子取引で使用したデータは印刷できなくなりました。すなわち、電子インボイスはデータのまま管理しなければならないのです。取引先によっては、電子インボイスではなく紙で対応を求められることもあるでしょう。トラブルを防止するためには、電子インボイスに移行する際に取引先へ事前に知らせたり承諾を取ったりと、意向を確認する必要があります。
業務委託の個人事業主がインボイス制度においてチェックすべき点
業務委託を受ける個人事業主が課税事業者になり、インボイス発行事業者登録をすると、免税事業者の時には免除されていた消費税を払わなくてはいけません。しかし、ポイントをおさえておかないと知らず知らずのうちに損をしてしまう可能性も。個人事業主が確認すべきポイントをチェックしましょう。
消費税の計算と納税
個人事業主が法人から業務委託を受ける場合も、個人事業主同士で業務委託を受ける場合も、報酬には消費税がかかります。商品の売買だけでなく労働サービスも消費税の対象となるためチェックしておきましょう。また、今まで支払われていなかった場合でも交渉できるので、確認をしてみてください。これから業務委託契約を結ぶ場合は、業務委託契約書に記載された報酬は内税なのか外税なのかを確認すると良いでしょう。
源泉徴収の取り扱い
業務委託における報酬は源泉徴収の対象です。源泉徴収とは、報酬を支払う側が所得税を差し引きし、報酬を受け取る側に代わって納税する制度です。アイデザイナーがアイサロンと業務委託の契約を結ぶ場合であれば、アイサロンが報酬の一部から所得税を納税します。アイデザイナーは、報酬から所得税を引いた金額を受け取るという流れです。なお、源泉徴収を計算する際の報酬は、消費税を含む金額を指します。
源泉徴収税額の金額の計算方法は以下の通りです。
<100万円以下の報酬における計算方法>
報酬の金額×10.21%
<100万円を超える報酬における計算方法>
(報酬の金額-100万円)×20.42+102,100円
報酬を支払った側は、翌月の10日までに「源泉徴収税」を納める必要があります。また、この源泉徴収の仕組みはインボイス制度が始まる前と同じため、インボイス発行事業者登録の有無で変わるものではありません。
帳簿の記帳と確定申告の注意点
課税事業者は、確定申告において消費税を納める必要があります。そのため、インボイス導入をきっかけに免税事業者から課税事業者へ変更した場合は、確定申告の際に消費税を支払いましょう。
また、インボイス制度では帳簿を保存するだけでも仕入税額控除が適用される場合があります。公共交通機関を利用する3万円以下の取引のように少額の場合は特例が認められる場合があるためチェックしておきましょう。
業務委託のスタッフがいるサロンオーナーがおさえるべきインボイス制度の対応
最後に、業務委託で働くスタッフがいるサロンを運営するオーナーが、インボイス制度においておさえるべきポイントをご紹介します。
業務委託スタッフとの契約見直し
業務委託で働くスタッフが免税事業者の場合、アイサロンや美容院がインボイス発行事業者登録をしていても仕入税額控除の対象になりません。そのため、スタッフには課税事業者への変更とインボイス発行事業者登録を促すことも検討すると良いでしょう。
また、インボイス制度実施にあたっては経過措置も用意されています。免税事業者への仕入れに対して2026年10月まで80%、2029年10月まで50%の控除が受けられるため、今いるスタッフとの契約を見直す際の目安にしてください。
インボイスを保存する準備
インボイスは7年間もの間保存しておかなければいけません。うっかり紛失したり捨ててしまったりしないように、保管方法や場所、受け取ってからの業務の流れを決めるのがおすすめです。また、紙のインボイスを使うのか電子インボイスを採用するのかも、決めておくとスムーズでしょう。
経理業務の効率化と対策
インボイス発行事業者になると、事務作業が複雑化するため手間が増えます。特に月末や月初には締め切り日が重なるため、多くの時間を割く必要があるでしょう。そのため、請求書受領システムを採用し、作業を効率化するのがおすすめです。また、人手が足りない場合やインボイス制度に対して不安なことがあれば、専門家のコンサルティングを活用する方法もあります。
まとめ
業務委託で働く美容施術者が仕入税額控除を受けるためには、インボイス発行事業者登録をしなければいけません。しかし、免税事業者はインボイス発行事業者登録ができないため、課税事業者へ変更をするかどうかの選択を迫られています。今回の記事を参考に、これからアイデザイナーや美容師として業務委託で働く人やサロンオーナーになる予定の人は、インボイス制度についての理解を深め、業務委託契約の内容を見直すなどのきっかけにしてください。
※本記事の内容はすべて、2024年11月時点のものです。
この記事を読んだあなたにおすすめの関連記事
2411_5SE